高い声が出るしくみ:輪状甲状筋と甲状披裂筋
声の高さは、声帯が1秒に何回振動するかで決まります。C4(真ん中のド)なら約262回、その1オクターブ上のC5なら約523回です。声帯の振動を速くするには、声帯をピンと張って薄くする必要があります。その役目をしているのが、喉頭の中の2つの筋肉です。
声帯を引き伸ばす:輪状甲状筋(CT)
輪状甲状筋は、輪状軟骨の前から、甲状軟骨の下の縁に向かって付いている筋肉です。まっすぐな部分と斜めの部分の2つに分かれています。

この筋肉が縮むと、甲状軟骨が輪状軟骨に対して前へ傾きます。声帯の前の端は甲状軟骨に、後ろの端は輪状軟骨の上の披裂軟骨に付いているので、甲状軟骨が傾くと声帯が前後に引き伸ばされます。ゴムを引っぱると細くなって張りが増すのと同じで、伸びた声帯は薄く張り、速く振動できるようになります。
声帯3Dシミュレーター「Larynx Simulator」 で音の高さのスライダーを上げると、甲状軟骨が前に傾き、左上の「声帯の長さ」の数字が増えていきます。
喉仏の下のくぼみで確かめる
喉仏のすぐ下には、甲状軟骨と輪状軟骨のすき間があり、指で触れると小さなくぼみがあります。輪状甲状筋が働くと、このすき間が狭くなります。低い音から高い音へ声を上げながら指先を当てると、くぼみが狭くなるのがわかる人もいます。

声帯を縮めて厚くする:甲状披裂筋(TA)
甲状披裂筋は、声帯の中を前後に走る筋肉です。声帯の中身の一部でもあります。この筋肉が縮むと、声帯は短く、厚く、硬くなります。

厚い声帯は、上下の幅が広い面でぶつかり合うので、太く力強い音になります。地声の響きは、この筋肉がしっかり働いていることで生まれます。
2つの筋肉の綱引き
輪状甲状筋は声帯を伸ばし、甲状披裂筋は縮めます。向きが反対なので、2つは綱引きのような関係です。声の高さと声の質は、この配分でおおよそ決まります。

| 声 | 輪状甲状筋(CT) | 甲状披裂筋(TA) | 声帯の状態 |
|---|---|---|---|
| 低い地声 | 弱い | 強い | 短く厚い |
| 高い地声 | 強い | 強いまま | 引っぱり合って張りつめる |
| ミックス | 強い | 少し残る | 伸びて薄くなりつつ、閉じる力は保つ |
| ファルセット | 強い | ほぼ休む | 長く薄く、ふちだけが揺れる |
地声のまま高い音を出し続けると、両方が強く引っぱり合う状態になります。この綱引きが限界に来たところが、地声で出せる高さの上限です。そこから上へ行くには、甲状披裂筋を少し緩めて、輪状甲状筋に主役を渡す必要があります。この切り替わりが「換声点」です。くわしくは「換声点と声帯削減」で説明します。
意識して動かせるのか
輪状甲状筋も甲状披裂筋も、手足の筋肉と同じく、意志で動かせる種類の筋肉です。ただし、喉頭の筋肉には、どれだけ縮んでいるかを感じ取る感覚がとても少なく、1つの筋肉だけを狙って力を入れることはほぼできません。
実際には「この高さの音を出したい」と耳で目標を決めると、脳が筋肉の配分を自動で決めています。レッスンでは「CTを使って」と指示するより、CTが自然に働く発声(軽い声でのサイレン、泣き声のような声など)を練習するほうが近道です。練習の例は「喉を下げる感覚と輪状甲状筋」にまとめました。
3Dモデルで確かめるには
- 「横」から見る
- 「地声」を選び、スライダーを低い音から上げていく
- 甲状軟骨の傾きと、左上のCTとTAのバーを見比べる
- 次に「ファルセット」で同じことをすると、TAのバーがほぼゼロのまま、CTだけが強まる
数値は説明のための目安です。実際の筋肉の働きは、人や歌い方によって大きく変わります。
声帯3Dシミュレーターで確かめる(Larynx Simulator)